2年前、台北メトロ(MRT)が中山駅そばの帯状公園(注1)のリニューアル工事に取り掛かろうとしていた時のこと。プロダクトデザイン会社、UID Create(桔禾創意整合)の張漢寧ディレクターの下にメトロから、「一つの始まりとして、ここを訪れた人々に中山駅の生活の姿を見てもらえるイベントを企画してほしい」との依頼が舞い込んだ。 注1:MRT中山駅から双連駅にかけて細長く伸びる公園。両駅を結ぶ地下街の上方に位置しており、全長は約500メートル。リニューアル工事は2018年に着工し、2019年11月に「心中山線形公園」として供用開始された。
「台北メトロとは当時、イベントやマーケット、アートを通じてこの地のライフスタイルへの想像をかき立てたいということを話し合いました」と張さんは振り返る。そこで生まれたのが、2018年4月に開かれた「心中山生活節」というイベントだ。イベントでは中山駅周辺の特色ある店に声をかけてマーケットを開催したほか、切り絵作家の成若涵さんに依頼し、テントをモチーフにしたインスタレーションを制作した。「メトロとインスタレーションを融合すること。これこそが当時の私たちのアイデアでした」(張さん)
中山駅の帯状公園は台北メトロ淡水線において、非常に重要なランドマークでありつづけてきた。淡水線は台北市内と北部の新北市淡水を結ぶ路線で、1997年に開業。以降、沿線住民にとって重要な生活の基盤となっていった。だが、初期の中山駅といえば、人々が思い浮かべるのは百貨店や光点台北映画館(注2)、路地のワッフル店(注3)、ハンバーガー店といったもので、台北駅に近い「一つの地域」(注4)に過ぎなかった。駅は通り道でしかなく、ただの接続地点で、それであって生活圏に組み込まるという、やや気まずい中間地帯にあった。 注2:かつて米国駐台北大使館だった建物に入居しているミニシアター。建物内にはレストランや商店も入っており、施設全体は「台北之家」として運営されている。 注3:行列ができる有名店「メランジェカフェ」(米朗琪咖啡館)が代表的。同店は1997年開業。現在も路地には複数のワッフル店が軒を連ねる。 注4:中山駅は台北駅の北、直線距離で約500メートルの場所に位置する。 「作品制作のためにもう一度この地を歩いてみて、地域から感じたものを作品で表現しました」。成さんにとって、台北北部の地域は実はなじみが深い。小さい頃から大稲埕(注5)で暮らしており、今のアトリエもそこにある。 注5:台北市の北西部にある旧市街地。観光客で賑わう迪化街も大稲埕に位置する。
台湾のローカルな生活の風貌は、成さんの作品において常に核心的な要素となっている。成さんにとって「台湾百景」のコンセプトは作風であり、こだわりでもある。心中山生活節でのインスタレーション制作で印象に残っているのは、中山駅と隣駅の双連駅との間で異なるライフスタイルと住民の姿だという。「帯状公園に沿って歩くと、文化の香りが漂う小さな店が並び、「打鉄街」と呼ばれる赤峰街の路地に入っていくと車の部品を扱う店がたくさんあります。そして雙連駅の近くまで来ると市場があって、安い、主婦向けの総菜店や衣料店などに出会えます」 成さんは作品制作のたびに現地を何度も歩いてまわり、コロコロと変わる現地の姿を観察しながら重点を掴み、作品中の重要なパーツにしていく。中山駅は歓楽街の林森北路からほど近く、忙しく飛び回るビジネス客や夜の店で働く女性も多い。双連駅そばの伝統市場には、そこで長く営むアイロンパーマが売りの理髪店を目にすることができる。これらは全て台湾人のライフスタイルで、幾層にも重なり合っている。そしてメトロはこの全てを乗せて走っている。成さんはこれらのライフスタイルを彫刻刀で紙に刻み、テントを作り上げた。このテントは帯状公園の中心にある台北メトロ本社正門の広場に置かれた。
ーーーーーー 文章は中央社の隔週特集「文化+」に掲載された「地鐵文化學 融合都會族的捷運生活 屬於台北都會的藝術景象」の一部を抜粋し、編集翻訳したものです。