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台北映画賞、ロイ・チウ主演作が最多4部門 グランプリは「オン ハピネス ロード」

2018/08/08 03:35
「オン ハピネス ロード」劇中写真(台北映画賞提供)
「オン ハピネス ロード」劇中写真(台北映画賞提供)

優れた台湾映画を表彰する「台北映画賞」(台北電影奨)の第20回授賞式が7月14日、台北市の中山堂で行われた。台北映画賞は、台湾の身分証あるいは居留証(ARC)を持っている監督の作品を対象とする賞で、長編フィクション、短編、ドキュメンタリー、アニメーションの4部門にノミネートされた計40作品の中から、部門をまたいで各賞の受賞者・作品が選ばれる。今年の応募総数は311件。

▽グランプリ「百万大賞」はアニメ映画「オン ハピネス ロード」

全ノミネート作品から選ばれる最高賞の「百万大賞」には、ソン・シンイン(宋欣穎)監督の「オン ハピネス ロード」(幸福路上)が選ばれた。同時にアニメ作品賞と観客賞も受賞し、3冠に輝いた。

同作は、台湾人少女が大人になるまでの成長を通じて、80年代から現代までの台湾社会の移り変わりを描き、幸せとは何かを考えさせる作品。女優のグイ・ルンメイ(桂綸[金美])が主演の声優を務めたほか、歌手のジョリン・ツァイ(蔡依林)が主題歌を担当したことでも話題を集めた。まず約12分間の短編として制作され、2013年に同映画賞のアニメ作品賞を受賞。それから約4年の歳月をかけ、長編作品として完成させた。「アニメは台湾の映像業界では隅に追いやられている」と現状を嘆くソン監督。同作製作の過程では、反対や悲観的な声もあったという。「この作品を完成させられたのは本当にうれしい」と声を詰まらせ、フランスを訪れた際に観客から「この作品のおかげで台湾という国があること、台湾にこんな美しい物語があることを知った」と声を掛けられたエピソードを明かした。

同作は海外ですでに高い評価を獲得しており、今年の「東京アニメアワードフェスティバル2018」でコンペティション長編部門グランプリを受賞したほか、フランスでは8月1日から一般公開された。台湾映画がフランスで一般公開されるのは2016年のホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督「黒衣の刺客」(刺客聶隱娘)以来だという。

またソン監督は、王小棣(ワン・シャオディ)が監督を務めた「魔法のおばあちゃん」(魔法阿媽、1998年)以来、代表的な台湾のアニメがないことに言及し、「これからは『オン~』を「台湾のアニメ」と紹介することができます」と誇らしげな表情を見せた。

次なるアニメ作品については、あと2~3年はかかるとしながらも、台湾版「ちびまる子ちゃん」を制作する構想を明かした。

トロフィーを手に笑顔を見せる「オン ハピネス ロード」のソン・シンイン監督。アニメ作品賞はパン・スーユー(盤思妤)監督「霓虹」との同時受賞
トロフィーを手に笑顔を見せる「オン ハピネス ロード」のソン・シンイン監督。アニメ作品賞はパン・スーユー(盤思妤)監督「霓虹」との同時受賞

▽ロイ・チウが主演男優賞 「誰先愛上他的」が最多4部門

最多4部門を受賞したのは、人気脚本家、シュー・ユーティン(徐誉庭)がMV監督のシュー・チーイェン(許智彦)と共同監督を務めた「誰先愛上他的」。死亡した夫の保険金の受取人が夫の同性愛の恋人に変更されているのが発覚したのをきっかけに、妻と子供、愛人の男の間で繰り広げられる人間模様を描いた。主演のロイ・チウ(邱沢)が主演男優賞に輝いたほか、長編フィクション作品賞、主演女優賞、メディア推薦賞を手にした。

トロフィーを手に4冠を喜ぶ「誰先愛上他的」チーム
トロフィーを手に4冠を喜ぶ「誰先愛上他的」チーム
「流星花園 ~花より男子II~」や「イタズラな恋愛白書」(我可能不會愛[イ尓])など数々のアイドルドラマの脚本を手掛けてきたシュー監督。きらきらとした美しい風景を描くアイドルドラマとは異なり、今作では台北の「汚くて雑多なところ」を重要な要素にしたとシュー監督は明かす。「それが海外に長期滞在したときに懐かしく思う台北の魅力」だと話し、「こんな台北を映し出したかった」と作品に込めた思いを説明する。

シュー監督によると、最初の試写ではファンから痛烈な言葉を多数投げつけられ、「今後映画を撮らないし、シナリオも書かない」と思うまでに至ったという。だが元の脚本から構成をガラッと変えて編集をし直し、最終的に現在の形に仕上がった。完成までに全部で4つの異なるバージョンの編集がなされたという。

「誰先愛上他的」劇中写真(台北映画賞提供)
「誰先愛上他的」劇中写真(台北映画賞提供)
ロイが映画関連の賞を受賞するのは初めて。映画賞の参加も初めてだという。ロイと言えば、「進め!キラメキ女子」(小資女孩向前衝)や「スクリューガール」(螺絲小姐要出嫁)など、“高富帥”と呼ばれる背が高く、金持ちでイケメンという人物を演じてきたイメージが強いが、今回演じたのは、資金繰りにあえぐ弱小劇団の演出家という役どころ。典型的な“かっこいい”男性ではなく、軽薄に見せかけながらも愛情深い人間味あふれる人物を演じきり、役者として一皮むけた姿を見せた。

ロイは受賞後の囲み取材で、最初はこの役を演じきれるか不安だったと告白。自分が演技の上で元々安全だと思っていた部分を覆さなければならず、一旦安全な部分に入ってしまうとユーティン監督からそれを指摘されたと明かし、「演技のプロセスは辛かった」と打ち明ける。だが、ユーティン監督の励ましもあり、自分の新たな姿を発見し、殻を破った演技にも次第に慣れていったという。

主演男優賞を受賞したロイ・チウ(台北映画賞提供)
主演男優賞を受賞したロイ・チウ(台北映画賞提供)
主演女優賞を獲得したシエ・インシュエン(謝盈萱)は、夫の保険金受取人に指定されたロイ演じる夫の恋人から保険金を取り戻すのに必死になる妻を演じた。ヒステリックになったり、急に泣きだしたりとコメディチックな演技で観客を笑わせつつも、夫を奪われた女性の悲哀や怒り、母親としての責任、優しさなど複雑な感情を繊細に表現した。
主演女優賞を受賞したシエ・インシュエン(台北映画賞提供)。インシュエンは舞台出身。ロイと同様、映画での賞は初めてだという。
主演女優賞を受賞したシエ・インシュエン(台北映画賞提供)。インシュエンは舞台出身。ロイと同様、映画での賞は初めてだという。

▽金馬奨作品賞の「血観音」は助演女優、脚本、編集賞の3冠

昨年のゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)で作品賞に輝いた「血観音」は、ヴィッキー・チェン(文淇)が金馬奨に続き助演女優賞を獲得。ヤン・ヤーチェ(楊雅[吉吉])監督は脚本賞を受賞した。ヤン監督は、「脚本賞は一番取りたかった賞」だと喜びを語り、その理由については「脚本を書けないことには演出もできないから」と持論を展開した。

「血観音」劇中写真(台北映画賞提供)
「血観音」劇中写真(台北映画賞提供)
今後の作品については、公共テレビ(公視)が製作を発表した、呉明益の小説「歩道橋の魔術師」(天橋上的魔術師)のドラマ化作品に制作チームとして名乗りを上げる意向を明らかにした。公視は制作チームを公募で選ぶと発表している。同作は、1992年に幕を下ろした台北市の「中華商場」を舞台にした連作短編集。ヤン監督は「この作品は重要なドラマになる。ノスタルジーとファンタジーの要素があるから」と制作権獲得に意欲をみせた。
脚本賞を受賞したヤン・ヤーチェ監督
脚本賞を受賞したヤン・ヤーチェ監督

▽「范保徳」のシャオ・ヤーチュエン監督が監督賞

監督賞には、台北映画祭のオープニングを飾った「范保徳」のシャオ・ヤーチュエン(蕭雅全)監督が選ばれた。シャオ監督は「素晴らしいカメラマンや役者がいなければ監督賞はない。全ての部門が一定のレベルに達していたからもらえた賞で、私はみんなを代表して受賞しただけ」と全てのスタッフの努力をたたえた。

監督賞を受賞したシャオ・ヤーチュエン監督(左)、受賞作「范保徳」劇中写真(台北映画賞提供)
監督賞を受賞したシャオ・ヤーチュエン監督(左)、受賞作「范保徳」劇中写真(台北映画賞提供)

▽ドキュメンタリー作品賞は「我們的青春、在台湾」

 ドキュメンタリー作品賞を受賞したのは、2014年のひまわり学生運動のリーダー、陳為廷氏と台湾で社会運動に取り組む中国籍の留学生、蔡博芸氏の2人にスポットを当てた「我們的青春、在台湾」。フー・ユエ(傅ユ)監督は、ひまわり学生運動に参加した人々は当時は希望を持っていた一方で、社会運動の後遺症を抱え、再び参加しようと思わなくなってしまった人も多いと話し、この作品を通じて「もう一度自分にチャンスを与えてほしい」と訴えかけた。(ユ=木へんに兪)

ドキュメンタリー作品賞を受賞した「我們的青春、在台湾」劇中写真(台北映画賞提供)
ドキュメンタリー作品賞を受賞した「我們的青春、在台湾」劇中写真(台北映画賞提供)

▽短編作品賞は兵役テーマにした「洞両洞六」

兵役をテーマにした「洞両洞六」が短編作品賞を受賞。兵役の新人が夜勤時に奇妙な出来事に遭遇するという物語をテンポよく、グロテスクに描いた。

タイトルの「洞両洞六」とは午前2時(洞両=02)から同6時(洞六=06)まで歩哨(ほしょう、警戒・監視の任)の任務を行うことを表す軍隊用語。ワン・イーファン(王逸帆)監督によると、自身の兵役中、普段大人しい人が追い詰められて人を殴る事件を起こしたのにインスピレーションを得て、同作品が生まれたという。

短編作品賞の「洞両洞六」(台北映画賞提供)
短編作品賞の「洞両洞六」(台北映画賞提供)

今年の審査員団は、中国のロウ・イエ(婁燁)監督が審査委員長を務めた。審査員団によると、今回の審査は13~14時間にも及んだという。グランプリの「オン~」は各方面で最も秀でており、感動を呼んだのが選出の決め手になったと説明。主演男優・女優賞に関しては、単純に今作品での演技に着目し、年齢や発展性は考慮しなかったと明かした。ドキュメンタリー作品賞については、激しい意見の衝突も起こったという。

▽台北映画祭で上映された良作

アニメ映画「オン ハピネス ロード」のグランプリ、「誰先愛上他的」の4冠で幕を閉じた「第20回台北映画賞」。この2作は審査員の評価、観客の人気ともに高かったが、作品賞受賞作品以外にも多く良作があった。

広告業界出身のマレン・ホアン(黄栄昇)監督の長編デビュー作「小美」は、突然失踪した少女の生命の輪郭を、少女と交流があった9人の人物による語りをつなぎ合わせることで浮かび上がらせていくという大胆な作品。物語の中心となる少女はほとんど登場せず、作品の大半が関係者それぞれの一人語りで展開されるにも関わらず、観客を作品に引き込み、少女が一体どういう人物だったのかを想像させ、大きな余韻を残した。チョン・モンホン(鍾孟宏)監督がエグゼクティブプロデューサーと中島長雄名義で撮影を担当し、撮影賞を受賞している。

「小美」劇中写真(台北映画祭提供)
「小美」劇中写真(台北映画祭提供)

台北映画賞のノミネート作ではないが、台北映画祭で特別上映された「搖滾樂殺人事件」は台湾のロック界と映画界のコラボレーションとして異彩を放った。今年の金曲奨でバンド賞を受賞した「董事長楽団」のベース、林大鈞がエグゼクティブプロデューサーを務めたのをはじめ、キャストにはファイヤー・イーエックス(滅火器)や八十八顆芭楽籽、トラッシュ(Trash)など現役のバンドメンバーが集結。90年代の台湾のロックンローラーの魂を現在に伝える作品。

「搖滾樂殺人事件」劇中写真(星泰娯楽提供)
「搖滾樂殺人事件」劇中写真(星泰娯楽提供)

短編には意欲作が揃った。中国から海に投棄される放射性廃棄物にスポットを当てた「海中網」や放置された工場を舞台にした「臨時工」、不法就労者を主人公にした「高山上的茶園」など台湾の社会問題に切り込んだ作品も多く見られた。比較的重い雰囲気の作品が多かった中、サニー・ユー(于瑋珊)監督の「2923」は受刑者と面会するアルバイトをする女性と受刑者の男性の心の交流を切なくも暖かく描き、観客の心を揺さぶった。

「2923」劇中写真(台北映画祭提供)
「2923」劇中写真(台北映画祭提供)

 (名切千絵)

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