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台湾人女性の心に眠る西表炭坑の記憶を探る 映画「緑の牢獄」 監督に聞く

2021/03/30 14:30
ドキュメンタリー映画「緑の牢獄」場面写真=黄インイク監督提供

ドキュメンタリー映画「緑の牢獄」場面写真=黄インイク監督提供

(台北中央社)かつて炭鉱が存在した沖縄県西表島に生きた台湾人女性の人生に迫ったドキュメンタリー映画「緑の牢獄」が4月3日から、日本で公開される。メガホンを取ったのは、沖縄を拠点に活動する台湾人監督、黄インイク(黄胤毓)。日本統治時代に八重山諸島に移り住んだ台湾人をテーマにしたシリーズ「狂山之海」の第2弾だ。中央社は3月下旬、黄監督に作品の背景や制作の裏話をリモートで聞いた。

同作の主人公は日本統治時代に西表島に移り住んだ台湾人女性、橋間良子さん。橋間さんのインタビューを中心に、炭鉱廃墟やその付近の緑が生い茂る風景、音声史料、再現映像を交え、家族の物語と忘れ去られた炭鉱の歴史をひもとく。橋間さんが92歳で亡くなるまでの晩年の4年間を記録し、2014年の撮影開始から完成までに7年間を費やした。

雄大な自然を目当てに多くの観光客が訪れる西表島だが、島にかつて大規模な炭鉱があった歴史はあまり知られていない。その労働の過酷さから命を落とす坑夫も多く、脱走を図る人も後を絶たなかったという。橋間さんは日本統治時代の1937年、坑夫の斡旋を生業とする養父に連れられ、西表島にやって来た。炭鉱閉山後も島に残り、この地に80年以上暮らした。タイトルの「緑の牢獄」とは西表炭坑研究の第一人者であるジャーナリスト、三木健さんが戦前の西表炭坑を形容した言葉だ。黄監督はその4文字に、島に囚われ続けた橋間さんの人生を重ね合わせた。

橋間さんは黄監督の撮影開始当時、西表島に残っていた、炭鉱を知る唯一の台湾人。子供も島を離れ、たった一人で暮らす。「狂山之海」の第1弾「海の彼方」では大家族に囲まれるパイン農家の台湾人移民にスポットを当てたが、橋間さんの境遇は正反対だ。

黄監督によれば、八重山の台湾移民のうち、大きな割合を占めていたのが石垣のパイン農家と西表の炭鉱労働者だった。そのため、「狂山之海」ではこの2つの歴史を扱いたかったと黄監督は明かす。だが、取材を進めていくうちにパイン農家の子孫は多く見つかったが、炭鉱関係の移民の子孫が少ないことに気が付いた。「負の歴史だからみんな言えないのか」。そして、西表島にいる数少ない移民子孫のルーツはいずれも坑夫ではなく、仲介人であることも後の調査で分かった。「坑夫はどこに行ったのだろう」。映画を通じてこの答えを探したと黄監督は話す。

台湾移民の子孫らに広く話を聞いていった末にたどり着いたのが橋間さんだった。高齢の橋間さんの生活は変化に乏しいため、映像にするのは一般的には難しい。だが黄監督は、橋間さんが暮らす家の謎めいた雰囲気や橋間さん自身の物語から「絶対に映画になる」と確信した。橋間さんを選んだのは「作家としてのカン」だと黄監督は照れ笑いする。これは調査を進めて分かったことだと前置きした上で、橋間さんの「仲介人の養女」としての立ち位置は加害者とも被害者とも言い切れないあいまいさがあり、この点も「見つめるいい角度」だと感じたという。

大変だったのは、歴史の深層に迫ること。炭鉱の記憶を引き出す上で、橋間さんの心の壁を取り払おうと、2017年に3人体制の歴史調査チームを立ち上げた。炭鉱の歴史について知識を深めることで、より深い話を掘り起こせるようになった。「簡単には聞き出せないインタビュー」と自信を見せる。

黄監督は今作に関連し、映画では描き切れなかった記録をまとめた書籍「緑の牢獄 沖縄西表炭坑に眠る台湾の記憶」を今月出版したほか、炭鉱からの脱走者を主人公にした短編フィクション「草原の焔」も制作した。「草原の〜」は黄監督が初めて本格的に撮影した劇映画だ。同作は「緑の~」に挿入した炭鉱の再現パートを制作する際に派生的に作ることにしたというが、書籍の出版は「意外だった」と笑う。歴史チームが調査の過程で移民子孫へのインタビューを行うなどしたことで新しい史料が手に入ったため、出版に動いたという。書籍は台湾でも刊行される。

「狂山之海」の第3弾は現在制作中。石垣島に暮らす台湾移民の3世、4世の若者たちを取材し、台湾移民の現在とこれからを描く。同作は2013年から撮影を開始し、来年再び撮影を行う予定。撮影開始当時30歳前後だった移民3世、4世の10年間の変化を伝える。第3弾とは別に一つの家族の撮影も行っており、どういう形にするかは検討中であるものの、同シリーズの第4弾または外伝になる可能性もあると明かした。

「緑の牢獄」は27日に沖縄・桜坂劇場で先行上映され、4月3日から東京・ポレポレ東中野ほか、日本全国で順次ロードショーされる。台湾では5月に公開予定。「草原の焔」は今後、イベントなどでも上映される見通しだという。

(名切千絵)


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