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  • コラム

<文化+>台湾ドラマ「次の被害者」 映像技術が物語を支える

2020/06/04 07:03

台湾発のNetflix(ネットフリックス)オリジナルシリーズ「次の被害者」(誰是被害者)は、4月末に配信開始されるとすぐに台湾で大きな注目を浴び、画面に映し出される全てのディテールがおしなべて好評を得た。この作品の映像技術は台湾人に、台湾のドラマも世界レベルと肩を並べられることを気付かせ、裏方の技術スタッフもこの作品によって高く評価された。彼らは何をしてどのようにそれを成し遂げたのだろうか?

<文章は中央社の隔週連載「文化+」に掲載された「《誰是被害者》:影視技術所撐起的故事」を編集翻訳したものです>

「次の被害者」劇中写真(Netflix提供)

「次の被害者」劇中写真(Netflix提供)

「次の被害者」を製作したのは、台湾の映像制作会社、グリーナー・グラス・プロダクション(瀚草影視)。物語は台湾オリジナル、製作会社も台湾、役者も台湾人、技術スタッフも全て台湾出身で、撮ったのはサスペンスの刑事ドラマだ。このジャンルのドラマは世界では珍しくないが、今回は一味違う。「次の~」は台湾の様々なカテゴリーの人々の顔、異なる階級の生活で構成され、台湾人の生命の有り様を結びつけてテンポの良い叙述方式で描かれた。

 この作品がこれほど多くの注目を集めたのは、物語自体が感動的だったからというだけでなく、あらゆる部分にこだわりが見られ、画面上で目に入るディテールが全て磨き上げられたものだったからだ。例えば、鑑識官を演じたジョセフ・チャン(張孝全、チャン・シャオチュアン)が行う鑑識の手法や事件現場の血の跡、刑事事件現場を見慣れているプロでさえも驚くような遺体などがそうだ。

 制作陣があらゆるディテールに気を配っていることから、制作過程における努力の跡が見て取れる。そして、裏方の技術スタッフもまた、紛れもなく、「次の~」が成功した重要な鍵である。



▽犯人は私、私が作った

 チュウ・ジアーイー(儲榢逸)。初めてこの名前を見た時、強く印象に残った。彼は「次の~」でSFX(特殊効果)スーパーバイザーを担当した。彼の若さは驚くべきで、28歳にして映像業界歴はすでに10年になる。そして、特殊メイクというこの世界には、生きてきた年月の3分の1以上を捧げている。チュウがグリーン・グラス・プロダクションとタッグを組むのは今回が初めてではない。同社がかつて制作した映画「紅衣小女孩」やドラマ「麻醉風暴」などのヒット作でもSFXスーパーバイザーを務めた。

「次の~」でSFXスーパーバイザーを務めたチュウ・ジアーイー(儲榢逸)

「次の~」でSFXスーパーバイザーを務めたチュウ・ジアーイー(儲榢逸)

 「今回の脚本には大きく4つの死の方法があった。まずは溶かされた死体、それから焼死体、頭が割れた死体、そして水に浮かぶ死体」。チュウは一つ一つ数えていく。チュウと技術チームは撮影中、大忙しだったという。「4つの中で一つ、すごく難しいものがあった。それは溶かされた死体。インターネットで写真を探したけれど、全く見つからなかった」。それもそのはずだ。人がどうやって死ぬのか、一般の人は想像上のものでしかない。特殊な職業でなければ見たことなんて当然なく、死亡事件の惨状なんて言うまでもない。その場面をパズルのようにつなぎ合わせることさえ難しい。

 「次の~」で監督を務めたデヴィッド・チュアン(荘絢維)とチェン・グアンジョン(陳冠仲)の両氏に先日会った時、溶かされた遺体のアイデアは台湾全土を驚かせた清華大殺人事件(注1)から着想を得たことを聞いた。

 注1:1998年3月に北部・新竹市の名門校、国立清華大学で起きた殺人事件。生物研究所(大学院)の修士課程に在籍する女子学生、洪曉慧が、1人の男子学生を巡る三角関係のもつれから同級生の女子学生を殺害し、腐食性が非常に強い劇物の王水を使って遺体を破損させた。

 この事件について、人々はニュースの画面を基に頭の中で想像を働かせているだけで、実際の状況がどのようなものであったか、正解は分からない。チュウはSFXスーパーバイザーとして、溶かされた遺体の様子を正確に表現する必要があった。監督だけでなく、画面を通してそれを見る観客にも納得してもらわないといけない。「最初は監督と小さな意見の対立があった」とチュウは打ち明ける。

 溶かした後の遺体は、一体どのような悲惨な有り様だったのか。チュウはもちろん実際には見たことはない。法医学者から写真をもらったり、インターネットの闇サイトで探したりするしかなかった。しまいには、「自分で溶かしてみればどんな風になるか分かる」と実際にやってみた。「本当に溶剤を買ってきて実際に豚の塊肉を溶かし、溶けた後の肉の色がどんな感じになるのか見てみた」。肉を溶かした後、監督に見本として見せ、それから肉ではない別の材料をぼろぼろになった肉のように組み合わせ、出演者に作品中で使用させたのだとチュウは笑いながら説明する。

「次の~」で制作スタッフが作った遺体(チュウ提供)

「次の~」で制作スタッフが作った遺体(チュウ提供)

 撮影の準備段階、チュウと特殊メイクスタッフは1週間のうち4日は遺体の写真の中に埋もれ、残りの3日は遺体の再現に挑んでいた。この期間、チュウの頭の中は様々な遺体でいっぱいだったという。「実は台湾の映像業界で、こんなに多くの遺体が出てくるドラマの仕事を受けたのは私たちが初めて。これまでの映画ではおそらく、特殊メイクを施すのは比較的小さな範囲で、身体のちょっとした傷といった程度だったから」。

 物語の盛り上がりを高めるため、そしてキャストに役に入り込んでもらうため、「次の~」では大量のシリコンで死体の道具を制作した。「作品中で発見される死体はみな、死亡後すぐに発見されるものだから、リアルな肉感や写実性を保ちたかった。こんな質感を生み出すにはシリコン以外はなかった」とチュウ。だが、シリコンの価格は高く、遺体の制作にかかった費用も安くない。「これまでの台湾ドラマでは、角度でごまかしたり実際の人が演じたりしていた。けれど今回の制作チームが撮りたかったのは具体的なもの。だからこそ今回は海外でよく見られる物や方式を採用した。準備段階の計画から完成するまで入念に考えて、シリコンで死体の質感と模様を作り出したんだ」。

チュウらが施した特殊メイク(チュウ提供)

チュウらが施した特殊メイク(チュウ提供)

 「次の~」で特殊効果に費やされたコストは他の作品に比べるとはるかに高い。「一般的に、特殊メイクを作る際に制作チームは基本的に20万元の予算を組む。でも、この予算は自由に特殊メイクを施せるほど十分ではない。傷や小さな傷口、切断された手足の断面くらいしか作れない」。海外では1体の遺体に数百万元をかけることはザラで、時間的コストも驚くべきほどだ。だが、台湾の映像業界ではこのようなケースは少ない。(1台湾元=約3.67円、2020年6月5日現在)

 作品に登場する道具やキャストが触れる事、物をリアルに仕上げるために、これほどまでに多くのお金や時間をかけることを厭わなかった作品は、チュウがこの業界に入ってからの10年の間で、台湾では見られなかったと振り返る。この経験はチュウにとっては重要で、感動的なものでもある。「制作スタッフはこれまではいつも監督やキャストの引き立て役で、彼らがアイデアを実現させるのを下支えしていた。でも今回は違う。自分のアイデアや想像力が作品の一部になったみたいだった」とチュウは言う。

 ドラマが配信開始されてから、チュウは自身のフェイスブックに死体の制作過程の一部を投稿した。「私は殺人犯、自首します。共犯もいます」との一文を添えて。この短い言葉からはチュウの喜びが伝わってくる。どっぷりと参加し、傑作を作り上げたという喜びが。

(陳秉弘/編集:名切千絵)

 

 


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