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“5月の雪”、苗栗三義の山肌を白く染める 観光発展する旧山線

2019/05/10 07:03
アブラギリ
アブラギリ

例年4月から5月になると、台湾各地の山々はまだらに白く化粧をする。“5月の雪”とも呼ばれるアブラギリが白い花を咲かせるためだ。アブラギリの名所である北部・苗栗県の南端にある三義郷は近年、廃線を利用したレールバイクの試験運用が始まるなど、観光客呼び込みに向けた取り組みが進められ、にぎわいを見せる。アブラギリが見頃を迎えた4月下旬、三義郷の旧山線沿線を訪れた。▽日本統治時代建設の「旧山線」で観光振興

 三義郷では、日本統治時代に建設された鉄道路線「旧山線」が観光資源として注目されている。三義駅と后里駅(台中市)を結ぶ全長15.9キロの路線で、新線供用開始によって1998年に廃止された。沿線には1935年の新竹・台中地震で崩壊したれんが造りのアーチ橋「龍騰断橋」をはじめ、美しい自然景観が広がる。旧山線は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産登録を目指す台湾の文化資産の一つにも選ばれており、県は旧山線沿線を観光名所にしようと活性化に乗り出している。

勝興駅前の街並み(左)、同駅のレールバイク
勝興駅前の街並み(左)、同駅のレールバイク
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▽客家ゆかりのアブラギリ

 アブラギリは低山や中山に生息し、春の終わりから初夏にかけて開花する。元々は台湾に分布しておらず、日本統治時代にその種油や木材を利用するのを目的に栽培されたという。台湾のエスニックグループ、客家の人々にとって、かつては家計を支える重要な作物だったことから、客家人と深いつながりを持つ。客家文化の振興を図る客家委員会は毎年、各地で「客家アブラギリフェスティバル」(客家桐花祭)を開き、客家の精神を伝えている。アブラギリは嘉義以北の山地や東部の各地でみられるが、北部の桃園、新竹、苗栗一帯の客家の町では特に美しい景色が広がる。

▽勝興駅周辺やレールバイクでアブラギリを観賞

 旧山線沿線の三義郷内の区間は山間部を通っており、観光地になっている廃駅、勝興駅は台湾鉄路管理局(台鉄)西部幹線縦貫線で最も高い標高(約402メートル)に位置する。周囲を緑に囲まれ、あちこちでアブラギリが目にできた。

勝興駅線路から見えるアブラギリ
勝興駅線路から見えるアブラギリ
勝興駅の駅舎は1912(大正元)年建設。拡張工事や改修などが行われているが、構造などは当時の姿を残している。1999年に駅が県定古跡となった後、2014年にはプラットホームや線路、倉庫などを含めた一帯が県の文化景観として登録された。勝興駅の周辺は商店が立ち並び、老街(古い町並み)のようになっている。程よい賑わいで、ゆったりと食事や散策を楽しめた
勝興駅の駅舎は1912(大正元)年建設。拡張工事や改修などが行われているが、構造などは当時の姿を残している。1999年に駅が県定古跡となった後、2014年にはプラットホームや線路、倉庫などを含めた一帯が県の文化景観として登録された。勝興駅の周辺は商店が立ち並び、老街(古い町並み)のようになっている。程よい賑わいで、ゆったりと食事や散策を楽しめた
 勝興駅そばの「挑柴古道」は、散った白い花びらで道が覆われ、確かに雪のよう。風が吹くと花びらがシャワーのように舞い落ち、静寂の中に聞こえるパラパラという音が幻想的な雰囲気を醸し出していた。
アブラギリの花びらで染まる挑柴古道
アブラギリの花びらで染まる挑柴古道
葉っぱの上に舞い落ちたアブラギリの花
葉っぱの上に舞い落ちたアブラギリの花
 昨年7月に旧山線の線路を活用して運用が始まったレールバイクから見える風景は特に絶景。高さ33メートルの魚藤坪鉄橋を通過する際にはアブラギリで染まった三方の山々が見渡せ、素晴らしい眺めを堪能できた。

▽旧山線を活用したレールバイク

旧山線レールバイク
旧山線レールバイク
 旧山線のレールバイクは、勝興駅から6号トンネルまでの区間(全長約6キロ)で試験運行されている。

 レールバイクとは、線路上を走る自転車。だが、旧山線のレールバイクは前2人、後部2人の計4人乗りの車両を採用し、電動アシスト機能を搭載しているため、運転席以外の同乗者は漕ぐ必要がない。GPS(全地球測位システム)との連動で音声ガイドサービスも提供される。

 コースは「勝興駅―龍騰駅」と「龍騰駅―鯉魚潭」の2つに分かれる。旧山線は単線であるため、随時出発するのではなく、各コースは出発時間が1日各4回のツアーの形式になっている。それぞれ所要時間約80~90分で往復する。途中下車をし、写真撮影やガイドの解説を聞く時間も設けられている。

 記者は龍騰駅から鯉魚潭までのコースを体験した。龍騰駅は「龍騰断橋」のそばに設置される。見どころは、魚藤坪鉄橋から望める龍騰断橋や山々の風景と、直線に連なった3連続のトンネル。トンネルの先に穴が重なる光景を見ることができる。

レールバイクから見える龍騰斷橋。龍騰断橋は日本統治時代の1907年に完成。当時、台湾で標高最高、支間長最大の橋だった。1935年に橋からわずか10キロほどの場所を震源とする大地震が起き、一部が崩壊。その後の余震や1999年の台湾大地震でも残る部分の橋脚の一部が折れるなどした。2003年に県の古跡に登録された
レールバイクから見える龍騰斷橋。龍騰断橋は日本統治時代の1907年に完成。当時、台湾で標高最高、支間長最大の橋だった。1935年に橋からわずか10キロほどの場所を震源とする大地震が起き、一部が崩壊。その後の余震や1999年の台湾大地震でも残る部分の橋脚の一部が折れるなどした。2003年に県の古跡に登録された
トンネルをくぐる瞬間。向こう側にもう一つのトンネルが見える
トンネルをくぐる瞬間。向こう側にもう一つのトンネルが見える
 終点の鯉魚潭ダムの手前の6号トンネルで一時下車し、鯉魚潭の見物スポットまで徒歩で移動。6号トンネルをくぐった先に見える内社川鉄橋も写真撮影スポットになっている。川の上にまっすぐに架かる橋はどことなくノスタルジーを感じさせた。写真撮影やガイドの解説を聞いた後、再び乗車し、復路に出発。下車している最中にスタッフによって車両の向きが変えられていた。
トンネル周辺を散策する参加者(左)、内社川鉄橋(右)は手前に柵が設置してあり、立ち入りは禁止されている
トンネル周辺を散策する参加者(左)、内社川鉄橋(右)は手前に柵が設置してあり、立ち入りは禁止されている
方向転換中の車両(中央)
方向転換中の車両(中央)
 復路では、魚藤坪鉄橋の手前で下車し、旧龍渓橋の南側の残骸「南断橋」を見物しに行くこともできた。視界が開けた場所にある北側の断橋に比べ、南断橋は周囲を木々で覆われているため、目につきにくい。記者はレールバイクのツアーで案内されなければ危うく見過ごしてしまうところだった。隠れた名所をコースに組み込んでくれていることはありがたい。
南断橋。左は側面、右は正面から撮影。木々に覆われており、目立たない。
南断橋。左は側面、右は正面から撮影。木々に覆われており、目立たない。
南断橋付近から見える北断橋
南断橋付近から見える北断橋

 旧山線のレールバイクを利用するには公式サイト(日本語版もあり)での事前予約が必要。乗車日の30日前から予約を受け付ける。特に週末は満席になる場合も多いため、早めに予約するのが良さそうだ。

龍騰駅のレールバイクチケット売り場
龍騰駅のレールバイクチケット売り場
▽楽しさ倍増のアブラギリの季節

  アブラギリの季節の旧山線沿線は、普段よりもより一層美しい景色が楽しめる。だが三義は公共交通機関が乏しいため、個人観光客にとっては交通の面がネックだ。台鉄三義駅から勝興駅、龍騰断橋までは距離があるため、車やバイクを運転できない場合はタクシーに頼らざるを得ない。ただ、今回記者が行った週末はアブラギリフェスの開催中で、駅や三義郷内の主要観光地を巡回する無料シャトルバスが運行されており、非常に助かった。同郷は毎年アブラギリフェスに合わせて無料バスを運行しているため、この時期を狙って訪れるのも手だろう。

台鉄三義駅。三義は木彫りの街としても知られ、構内には木彫りの作品が展示されていた
台鉄三義駅。三義は木彫りの街としても知られ、構内には木彫りの作品が展示されていた

(名切千絵)

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