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  • コラム

第55回金馬奨授賞式 台湾映画「誰先愛上他的」が3部門受賞

2019/01/02 03:05

中華圏の映画の祭典「ゴールデン・ホース・アワード」(金馬奨)。第55回授賞式は2018年11月17日、台北市の国父紀念館で開かれた。今年は最多12部門にノミネートされた中国のチャン・イーモウ(張芸謀)監督の史劇アクション「影」に続いて台湾映画「誰先愛上他的」が8部門で候補になり、受賞の行方に注目が集まった。

 今年の応募数は計667作品と過去最高を更新。内訳は、長編フィクション228件、長編アニメーション8件、ドキュメンタリー99件、短編実写266件、短編アニメーション66件だった。

▽「誰先愛上他的」は3部門受賞

 「誰先愛上他的」はノミネートされた8部門のうち、主演女優賞、編集賞、オリジナル映画歌曲賞の3部門を制した。主演女優賞を初受賞したシエ・インシュエン(謝盈萱)は舞台出身。スピーチでは「国父紀念館のステージに舞台劇以外で立つのは初めて」と声をつまらせ、相手役のロイ・チウ(邱沢)などに感謝した。ロイも主演男優賞にノミネートされていたが、受賞は逃した。

主演女優賞を初受賞し、ステージで涙ぐむシエ・インシュエン

主演女優賞を初受賞し、ステージで涙ぐむシエ・インシュエン





(「誰先愛上他的」予告映像 Youtubeチャンネル華納兄弟台湾粉絲倶楽部より)

人気脚本家、シュー・ユーティン(徐誉庭)がMV監督のシュー・チーイェン(許智彦)と共同監督を務めた「誰先愛上他的」。死亡した夫の保険金の受取人が夫の同性愛の恋人に変更されているのが発覚したのをきっかけに、妻と子供、愛人の男の間で繰り広げられる人間模様を描いた。

▽「オン ハピネス ロード」がアニメーション作品賞

アニメーション作品賞には、ソン・シンイン(宋欣穎)監督の「オン ハピネス ロード」(幸福路上)が選ばれた。同作は東京アニメアワードフェスティバル2018でコンペティション長編部門グランプリ、今年の台北映画祭で最高賞の百万大賞を受賞したのをはじめ、世界各地で高い評価を得ている。ソン監督は「これはとても励まされる物語」とスピーチし、「努力し続ければ、そして一つのことをしっかりと成し遂げれば世界はあなたを助けてくれます」と夢を追う人々にエールを送った。

声優を務めた女優のグイ・ルンメイ(桂綸[金美]、左)からトロフィーを受け取るソン・シンイン監督

声優を務めた女優のグイ・ルンメイ(桂綸[金美]、左)からトロフィーを受け取るソン・シンイン監督





 (「オン ハピネス ロード」予告映像 Youtubeチャンネルifilm伝影互動より)

台湾人少女が大人になるまでの成長を通じて、80年代から現代までの台湾社会の移り変わりを描き、幸せとは何かを考えさせる作品。女優のグイ・ルンメイが主演の声優を務めたほか、歌手のジョリン・ツァイ(蔡依林)が主題歌を担当したことでも話題を集めた。

関連記事:台湾アニメ「オン ハピネス ロード」、米アカデミー賞にエントリー

 ▽俳優部門で台湾勢健闘 

俳優部門では、主演女優賞のシエ・インシュエン(謝盈萱)をはじめ、「幸福城市」のディン・ニン(丁寧)が助演女優賞、「海だけが知っている」(只有大海知道)に主演した先住民タオ族の子役、ジョン・ジアジュン(鍾家駿)が弱冠14歳で新人俳優賞を受賞するなど台湾勢が健闘した。

助演女優賞を受賞し笑顔を見せるディン・ニン

助演女優賞を受賞し笑顔を見せるディン・ニン

「海だけが知っている」は台湾の離島・蘭嶼の小学校であった実話を題材にした作品。同作のキャストは教師役を演じたホァン・シャンホー(黄尚禾)を除く全員が実際に島に住む人々で、ジアジュンも演技経験ゼロの素人。ジアジュンは「演技が大好き」と声を震わせながらスピーチし、感激の涙を流した。

プレスルームではジャンプで喜びを表現したジョン・ジアジュン

プレスルームではジャンプで喜びを表現したジョン・ジアジュン



 ▽日本人アクション監督、谷垣健治がアクション設計賞

アクション設計賞の受賞スピーチをする谷垣健治

アクション設計賞の受賞スピーチをする谷垣健治

アクション設計賞は日本人アクション監督、谷垣健治がチャン・ウェン(姜文)監督の「邪不圧正」でホー・チュン(何鈞)、イェン・ホア(厳華)と共同受賞した。谷垣の金馬奨受賞は初めて。

 香港映画界を中心に活躍する谷垣。今回の作品は北京のスタッフとの仕事だったため、コミュニケーションなどで戸惑いもあったという。チャン監督と本格的に仕事をするのは今回が初めてで、香港俳優ドニー・イェン(甄子丹)からの紹介で同作に参加することになったと明かし、「勉強になった」と感想を語った。

 関連記事:金馬奨アクション設計賞に谷垣健治

監督賞は中国のチャン・イーモウ(張芸謀)監督が「影」で初受賞。史劇アクションを水墨画のような色彩で表現し、人の心の複雑さをテーマに描いた。チャン監督は受賞後、「大きな挑戦だった」と明かした。「影」は監督賞のほか、視覚効果賞、美術賞、衣装デザイン賞の4部門を制し、今回の最多受賞作品に輝いた。フィクション作品賞には、上映時間約4時間に上る超長編の中国映画「象は静かに座っている」(大象席地而坐)が選ばれた。メガホンを取ったフー・ボー(胡波)監督は昨年自ら命を絶ち、授賞式では監督の母親が息子に代わってトロフィーを受け取った。同作はフー監督が執筆した同名小説を原作としており、小説は台湾東部・花蓮が舞台になっている。

監督賞を初受賞し笑顔を見せるチャン・イーモウ監督

監督賞を初受賞し笑顔を見せるチャン・イーモウ監督



ジャンルごとに計5部門設けられた作品賞では、台湾の作品が3部門(ドキュメンタリー、長編アニメ、短編アニメ)で受賞を果たした。



(短編アニメーション作品賞を受賞した「当一個人」予告映像 Youtube金馬影展TGHFFより)

 ▽台湾人監督の台湾独立支持発言に中国俳優が応戦 異例の事態に

 今回の授賞式では、台湾人監督が受賞スピーチで台湾独立を支持する発言をしたことを発端に、中国俳優が「両岸は一つの家族」を主張し、台湾と中国間の政治的対立が如実に表れる異例の事態になった。

 台湾独立を支持する発言をしたのは、「我們的青春、在台湾」でドキュメンタリー作品賞を受賞したフー・ユー(傅ユ)監督。同作は2014年に中国とのサービス貿易取り決めをめぐって起こったひまわり学生運動のリーダー、陳為廷氏と台湾で社会運動に取り組む中国籍の留学生、蔡博芸氏の2人にスポットを当てた作品で、フー監督は作品の内容にからみ、「青春は過ちを犯しやすく、誤った期待を他人に抱きやすくなる」と前置きした上で、「このようなことは国家の間にも起こりうる」と政治問題について切り出し、「台湾が真に独立した個体としてみなされるよう願っています」と心の底の思いを吐露した。(ユ=木へんに兪)

ドキュメンタリー作品賞の受賞スピーチをするフー・ユー監督(左)

ドキュメンタリー作品賞の受賞スピーチをするフー・ユー監督(左)

するとその約45分後、主演女優賞のプレゼンターとしてステージに立った中国俳優のトゥー・メン(ト們)が先ほどのフー監督のスピーチに応酬するかのように、「再び『中国台湾』金馬奨に来られたことを光栄に思う」と発言し、さらに「両岸は一つの家族だと感じる」と述べて中国の立場を強調。台湾と中国双方の映画人がそれぞれの政治的立場を表明する形となり、対立ムードが一気に浮き彫りになった。(ト=さんずいに余)

主演女優賞のプレゼンターとしてステージに立つトゥー・メン(左)

主演女優賞のプレゼンターとしてステージに立つトゥー・メン(左)

この発言以降、会場では不穏な雰囲気が漂い始めた。受賞者はトロフィーを受け取った後にプレスエリアに登場し、写真撮影やムービー取材の後にペン記者による囲み取材を受けるのが通例だが、トゥーの発言の後に発表された主演男優賞を受賞した中国のシュー・ジェン(徐崢)やフィクション作品賞を獲得した中国映画「象は静かに座っている」のプロデューサーやキャストらは写真、ムービー取材を済ませるとペン記者の取材を受けずに足早にプレスエリアから立ち去っていった。その後俳優らが取材を受けるために再び戻ってくるのかわからない状態が続き、現場の記者には混乱が広がった。

 授賞式では、トリを飾るフィクション作品賞の発表時、金馬実行委員会主席のアン・リー(李安)監督とともにプレゼンターを務める予定だった審査委員長のコン・リー(鞏俐)が登壇を取り止めた。コンは、審査委員長が行うのが通例のプレスエリアでの審査過程の説明もしなかった。リー監督はコンが授賞式で登壇しなかった理由について「他の審査員たちと一緒に(ステージ下に)座っていたかったため」と説明しつつ、苦笑をもらした。

レッドカーペットで撮影に応じるコン・リー

レッドカーペットで撮影に応じるコン・リー

 リー監督は今回の授賞式に政治的要素が持ち込まれたことについて、「金馬奨は優秀な(中華圏の)作品を祝福する場」とし、「開かれた、できる限り公正、公平なプラットフォームとなることを目指している」と言及。続けて、「台湾は自由な場所で、映画祭は開かれたもの。発言を規制することはできない。みんなわれわれの客人だから」とし、「芸術は芸術と考え、このような干渉はあってほしくない。芸術は純粋であるという点を尊重してほしい」と願った。

授賞式終了後、プレスルームで取材に応じるアン・リー監督

授賞式終了後、プレスルームで取材に応じるアン・リー監督

政治的問題を題材にした「我們的~」がドキュメンタリー賞に選ばれたことからも、金馬奨の審査が政治とは切り離して「公正、公平」に進められたことは明白であるといえるだろう。リー監督の発言には今回の問題への虚しい思いがにじんでいた。

 関連記事:台湾の映画賞、中国人俳優「中国台湾」発言が波紋 蔡総統「台湾は台湾」

関連記事:中国作品の金馬奨参加危ぶむ声 文化相「映画製作者の尊重を」 

▽例年以上に華やいだレッドカーペット 豪華スターが美の競演

 例年以上に多くの豪華スターが顔を揃えた今年の授賞式。出席率は「9割以上」(アン・リー監督)に上り、中でも主演男・女優賞はノミネートされた役者全員が参加し、式典に華を添えた。今年は米ハリウッドで活躍する台湾出身の映画監督、アン・リーが金馬実行委員会主席を務める初めての年ということもあり、リー監督のメンツを立てようと多くのスターが駆け付けたとみられている。

プレゼンターとして出席したビビアン・スー(徐若[王宣])は真っ赤なマーメイドドレスでレッドカーペットに登場。オードリー・ヘップバーンが「ティファニーで朝食を」で身につけていたティファニー製ジュエリーの復刻版を身に着け、優雅さを演出した。

ビビアン・スー。左がレッドカーペット。授賞式では白のドレス姿を披露した(右)

ビビアン・スー。左がレッドカーペット。授賞式では白のドレス姿を披露した(右)

同じくプレゼンターを務めたグイ・ルンメイは胸元が大きく開いたシャネルのブラックドレスで気品あふれる姿を見せた。

グイ・ルンメイ

グイ・ルンメイ

レッドカーペットでとりわけ大きな歓声を浴びたのは、香港のアンディ・ラウ(劉徳華)。最多12部門ノミネートを果たした「影」のチャン・イーモウ監督や主演を務めたダン・チャオ(トウ超)、スン・リー(孫儷)に対してもアンディと引けをとらないほどの歓声が上がった。ダン・チャオとスン・リーは夫婦で同作に出演。レッドカーペットでも仲むつまじい様子を見せた。(トウ=登におおざと)

左からアンディ・ラウ、チャン・イーモウ、ダン・チャオとスン・リー夫妻

左からアンディ・ラウ、チャン・イーモウ、ダン・チャオとスン・リー夫妻

(名切千絵)


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