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台湾舞台の新作「小さな場所」を日台同時発売 東山彰良さんインタビュー(前)

2019/11/28 16:45
東山彰良さん

東山彰良さん

(台北中央社)台湾出身の作家、東山彰良さんの連作集「小さな場所」が14日、台湾と日本で同時発売された。台北の「紋身街」と呼ばれる通りを舞台に、9歳の少年とそこに集う大人たちの交流を描いた作品だ。台湾に滞在していた東山さんに11月中旬、作品や台湾での過ごし方などについて話を聞いた。

東山さんにとって、台湾を舞台にした作品は直木賞受賞作の「流」、「僕が殺した人と僕を殺した人」に続き3作目となる。日台同時発売は自身初めてであり、「出版業界でも初めてではないか。他社の編集者に話すとびっくりされる」と東山さん。長編小説の場合は翻訳作業のためにどうしても時間差が生じてしまうが、今作は日本の小説誌で不定期に発表した短編6編をまとめたもので、掲載された作品から順に翻訳に回していくことで同時発売が実現した。日本での評価が出る前に台湾の読者に届けられるため、「新鮮に思ってもらえれば」と期待を寄せる。

今作の舞台となる「紋身街」は、若者が集まる台北の繁華街、西門町の一角にある。紋身とは刺青(いれずみ)のことで、この通りはその名のとおり、刺青店が軒を連ねることで知られる。賑やかな西門町にあって、陰鬱な雰囲気をまとう場所だ。作品中では「街の恥部のような細くて小汚い通り」と形容される。

東山さんは「ある場所を軸に据えて、そこに住む普通の人々を描きたい」との思いが執筆の出発点になったと話す。カリブ海の島国トリニダード・トバゴ出身の作家V・S・ナイポールの小説「ミゲル・ストリート」の影響を受けた。

今作を含め、台湾を舞台にした3作品は、非日常を現実的に描く「マジックリアリズム」的な文章を再現するために、日本の読者を異世界に引きずり込むのにふさわしい場所として台湾を選んだと東山さんは説明する。台湾を舞台にすれば「現実に不可思議なことが起こっても日本の読者は許容できるのではないか」と考え、そこから「子供と刺青師の交流を描いたら面白いのではないか」とのアイデアで紋身街に行き着いた。

東山さんは日本在住だが、作品にはリアルな台湾社会の空気感が漂う。紋身街を実際に歩いてみると、物語に登場する主人公の少年・小武(シャオウ)の両親が営む店やドリンク店、刺青店をついつい探してみたくなる。店は全てフィクションだというが、物語には、東山さんが家族などから実際に聞いたエピソードやそこから着想を得た要素などが散りばめられている。「あとは跳ぶだけ」に出てくる酒飲みの父親の「王二本」というあだ名は、東山さんの父親が実際にそう呼ばれていたあだ名から取られた。「小さな場所」に登場する「なんでも入る壺の絵」は東山さんの夫人が子供の頃にやっていた遊びなのだという。民間信仰や刺青に関する知識は、偶然にも彫り師になっていた従妹から仕入れた。東山さんが30年前に書いた童話も物語に挿入されている。

東山さんが描く台湾は、1970、80年代を時代背景にした「流」「僕が~」であれ、現代が舞台の今作であれ、子供の周りにたくさんの大人―しかも少しガラが悪い―がいるという光景が印象的だ。「自分が子供時代に悪い大人に憧れてたんでしょうね。ビンロウ(※)の赤い汁を『ペッ』と吐くのはかっこいいと思っていた。周りにいた大人たちって口が上手くて、子供を平気でだまくらかす。そういうのに僕はノスタルジーを感じるので自然とそういうふうになっちゃうのかもしれない」。(※ヤシ科の植物。種子を少量の石灰と一緒に葉で包み、かみたばこのように使用する。ニコチンと同様の作用があるとされる。かむと赤い汁が出る)

一方、日本の社会では核家族化が進み、子供を取り巻く大人の数が少なくなっているように感じる。「まさにそれも僕が考えたこと。それも日本の読者を異世界に連れて行く一つの方法」

東山さんは現在、新作を準備中。内容については「台湾も舞台の一つになっている」とだけ明かした。

後編に続く。https://cutt.ly/Je1GYYh


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